お盆や正月に和歌山の実家へ帰ると、おばあちゃんの話す言葉が半分くらい聞き取れない。そんな経験はありませんか。
「クチナワが出たから気ぃつけよ」「オイヤンがキンノ来やったで」と言われて、笑顔でうなずきながら頭の中は「?」だらけ。意味を聞き返すのも気まずくて、そのまま流してしまったという人は多いはずです。
実は和歌山県は、平成22年度に県が方言調査を行い、県全域で使われる言葉を公式アーカイブとして公開しています。県が「記録に残す価値がある」と判断した言葉の多くが、今のおばあちゃん世代にしか残っていない古い和歌山弁です。
この記事では、県公式アーカイブに収録された昔の言葉を意味付きで一覧にし、おじいちゃんの言い回しに残る古語、聞き取りにくい発音の癖、死語になりつつある言葉と現役の言葉の違いまでを、和歌山歴35年の監修者の目線で解説します。
読み終えるころには、次の帰省でおばあちゃんの話がすらすら分かるようになるはずです。

和歌山弁の昔の言葉とは|おばあちゃん世代にだけ残る理由
和歌山弁の「昔の言葉」とは、昭和中期より前に生まれた世代が日常で使い、それより下の世代ではほとんど使われなくなった和歌山の方言を指します。学術的な区分ではなく、家庭の中で「おばあちゃんしか言わない言葉」として感じられる層のことです。
和歌山県は紀伊半島の西側に位置し、北は和泉山脈で大阪と隔てられ、東は紀伊山地の奥深い山々に囲まれています。この地形が長く人の行き来を制限し、県内に独自の言葉を残しました。方言学の分類では、県内の方言は紀北・紀中・紀南の3つに分けられ、さらにそれぞれが平地と奥地に分かれるとされています。
紀ノ川流域の紀北は大阪との交流が早くから盛んで、若い世代の割合も高いため、語彙の世代差が特に大きい地域です。一方、紀中や田辺周辺には古い京阪式アクセントや動詞の二段活用が残るとされ、紀南の奥地ほど古い言葉が生き残っています。

【県公式アーカイブ収録】おばあちゃんが使う和歌山弁の昔の言葉一覧
ここで紹介する言葉は、和歌山県文化情報アーカイブ「和歌山の方言」の50音順ページに収録されている語です。県企画部文化学術課が平成22年度の調査をもとに、県全域で比較的よく使われる方言として公開しています。
共通語との対応は同アーカイブの表記に合わせています。使われ方の説明は監修者が地元で聞いてきた範囲での補足です。
自然・生き物の昔の言葉
| 和歌山弁 | 共通語 | おばあちゃんの使い方の例 |
|---|---|---|
| クチナワ・クチナー | 蛇 | 「畑にクチナワおったで」 |
| ハビ | 蝮(まむし) | 「ハビは噛まれたらあかん」 |
| イナビカリ | 稲妻 | 「イナビカリ光ったら早う帰りよ」 |
| オヒサン | 太陽 | 「オヒサン出てきたなあ」 |
| デンデンムシ | 蝸牛(かたつむり) | 「雨やからデンデンムシ出とる」 |
| サイラ・サエラ | 秋刀魚 | 「今日はサイラ焼こか」 |
| ジューヤク | どくだみ | 「ジューヤク干して茶にする」 |
| ソコマメ | 落花生 | 「ソコマメ炒ったで」 |
| タンボ | 水田 | 「タンボの水見てくる」 |
| テッペン | 山頂 | 「テッペンまで登ったんか」 |
「クチナワ」は「朽ち縄」、つまり腐った縄に見えることから蛇を指すようになったとされる古い言い方で、和歌山以外の西日本でも年配層に残っています。「ハビ」は蝮を指す語で、山や川の近くで育ったおじいちゃんほどよく使います。
「サイラ」は秋刀魚の古名で、和歌山では今も魚屋や年配の方の会話に残っています。「ジューヤク」はどくだみの生薬名「十薬」がそのまま日常語になったもので、庭で干して煎じていた世代ならではの言葉です。
家族・人を表す昔の言葉
| 和歌山弁 | 共通語 | おばあちゃんの使い方の例 |
|---|---|---|
| オイヤン | 伯叔父(おじさん) | 「オイヤンとこ行ってくる」 |
| オトンボ・オチンボ | 末子(すえっこ) | 「あの子はオトンボやから甘えたや」 |
| オナゴ | 女 | 「オナゴの子ばっかりやった」 |
| ツレ | 仲間 | 「ツレと祭り行ってくる」 |
| イラチ | 性急な人 | 「おじいちゃんはイラチやから」 |
「オイヤン」は「おじさん」の和歌山的な言い方で、親戚のおじだけでなく近所の年配男性にも使います。「オトンボ」は末っ子を指す言葉で、他県の人には最も通じにくい和歌山弁の一つです。「ツレ」は仲間・友達の意味で、これは若い世代にも現役で残っています。
暮らし・道具・時間の昔の言葉
| 和歌山弁 | 共通語 | おばあちゃんの使い方の例 |
|---|---|---|
| キンノ・キンノー | 昨日 | 「キンノ雨やったなあ」 |
| セッタ | 突っかけ(サンダル) | 「セッタ履いて出たらあかん」 |
| バッチ | 股引(ももひき) | 「寒いからバッチ履きよ」 |
| ケツ | 尻 | 「ケツ冷やすな」 |
「キンノ」は「昨日(きのう)」が変化した形で、県公式アーカイブにも収録されている代表的な昔の言葉です。おばあちゃん世代は「キンノ」「キョウワ(今日)」「アイタ(明日)」のように、日付の言い方そのものが共通語とずれていることがあります。

おじいちゃんの言い回しに残る和歌山弁の古語|語尾と文法
単語だけでなく、語尾や打ち消しの形にも、おじいちゃん世代ならではの古い和歌山弁が残っています。方言研究者の楳垣実氏や村内英一氏の記述として知られる特徴を、地元で聞く実例とあわせて整理します。
「〜のし」「〜のーし」|相手に語りかける語尾
紀州弁を代表する文末表現で、「そうやのし(そうですね)」「ええ天気やのし」のように使います。相手への確認や同意を柔らかく求める語で、現在は年配の方に多く、若い世代ではほとんど聞かなくなりました。おじいちゃんの話が「〜のし」で終わっていたら、それは「〜ですね」と受け取って大丈夫です。
「行こら」「食べよら」|「〜ら」で誘う
「〜ら」は勧誘の語尾で、「行こら」は「行こうよ」の意味です。「一緒に行こら」「早う帰ろら」のように使い、こちらはおばあちゃん世代から子どもまで幅広く現役です。地元で「つれもて行こら(連れ立って行こう)」と聞こえたら、誘われています。
「おまん」「おまはん」|親しみを込めた二人称
「おまん」「おまはん」は「あなた」にあたる二人称で、乱暴に聞こえますが本来は親しみを込めた言い方です。おじいちゃんが孫に「おまんも食べるか」と言うのは、ごく普通の呼びかけです。一方で自分たちを指す「あがら(私たち)」は今も県内で広く使われています。
「〜ん」「〜やん」「〜へん」|打ち消しの形
和歌山の打ち消しは「〜ん」が最も一般的で、「知らん」「行かん」となります。ほかに「〜やん(できやん)」「〜へん」「〜せん」「〜らん」といった形も併存しており、「できやん」「行けやん」の「やん」は和歌山らしさが強い言い方です。おばあちゃんの「そんなんせん」は「そんなことはしない」です。
「降りやる」「降りよる」|動作の途中を表す言い方
「雨が降りやる」「風が吹きよる」のように、動作が続いている状態を表す形にも地域差があります。和歌山市周辺では共通語に近い「降ってる」が多い一方、紀中・紀南のおじいちゃんは「降りやる」「降りょーる」といった形を使うことがあります。

「ざじずぜぞ」が「だぢづでど」に|昔の言葉が聞き取れない発音の癖
おばあちゃんの言葉が聞き取れない最大の原因は、単語ではなく発音にあります。紀州弁ではザ行がダ行に、ダ行がラ行に変化しやすいことが方言学の記述で知られています。「全然」が「でんでん」、「銅像」が「どうどう」になるのが典型例です。
地元では「雑巾」が「どうきん」、「冷蔵庫」が「れいどうこ」と聞こえる場面が今もあります。若い世代はかなり共通語寄りになりましたが、おばあちゃん世代ではこの癖がはっきり残っている方が多く、単語を知っていても耳で拾えないことがあります。
もう一つの癖が母音の融合です。紀南では「水くさい」が「みずくさー」のように「あい」が「あー」に、紀北の東側では「ない」が「ねー」のように「あい」が「えー」に変わることがあります。さらに「起こしたる」が「おこいたる」、「ばっかり」が「ばっかい」となるように、子音が落ちる例もあります。
| 共通語 | おばあちゃんの発音 | 変化の種類 |
|---|---|---|
| 全然 | でんでん | ザ行→ダ行 |
| 銅像 | どうどう | ザ行→ダ行 |
| 水くさい | みずくさー | 母音の融合(紀南) |
| ない | ねー | 母音の融合(紀北東部) |
| 起こしたる | おこいたる | 子音の脱落 |
| ばっかり | ばっかい | 子音の脱落 |
聞き取れないときは「ザ行をダ行に、ダ行をラ行に置き換えて聞き直す」だけで、かなりの言葉が判読できます。「どうきん」なら「ぞうきん」、「れいどうこ」なら「れいぞうこ」という具合です。

和歌山弁の死語と現役の言葉|世代で残り方が違う
和歌山弁は「全部が消えかけている」わけではありません。昭和の中期以降に生まれた世代では一部の語があまり使われなくなった一方、日常語として定着し続けている言葉も多いのが実態です。地元で聞く範囲を、監修者の感覚で3つの層に分けます。
ほぼ死語になりつつある和歌山弁
- クチナワ・ハビ・イナビカリ:自然に関する言葉は、生活が農林漁業から離れるにつれて使う場面そのものが減りました。
- バッチ・セッタ:股引や突っかけを日常で履く機会が減り、物とともに言葉も消えつつあります。
- 〜のし:文末の「〜のし」は年配層の目印になりつつあり、若い世代が使うと少し芝居がかって聞こえます。
- オトンボ・オイヤン:家族の呼び方は「末っ子」「おっちゃん」に置き換わり、親戚の集まりでしか聞かなくなりました。
おばあちゃん世代と親世代が共有している言葉
- キンノ(昨日):親世代までは自然に出ますが、子ども世代は「きのう」に寄っています。
- おまん・おまはん:家庭内では今も聞きますが、外では使われにくくなりました。
- 降りやる・降りよる:紀中・紀南では親世代も使い、紀北では減っています。
今も若い世代まで現役の和歌山弁
- 〜ら(行こら):勧誘の語尾は世代を問わず使われます。
- 〜やん(できやん):打ち消しの「やん」は若い世代ほどよく使う印象です。
- あがら・ツレ:「私たち」「仲間」は学生の会話にも普通に出てきます。

おばあちゃんの和歌山弁を正しく調べる方法|県アーカイブと聞き書き
祖父母の言葉を「なんとなく」ではなく確かめたいときは、県が公開している公式アーカイブを先に見るのが最も確実です。個人サイトの方言辞典は語数が多い反面、意味の取り違えや地域の混同がそのまま載っていることがあります。
1. 和歌山県文化情報アーカイブ「和歌山の方言」
県文化情報アーカイブの50音順ページでは、県全域で使われる言葉が共通語と対比で掲載されています。同アーカイブには、県内各地域の方言による会話を共通語と比べられる「方言会話文8選」が音声付きで収録されており、おばあちゃんの話し方そのものを耳で確認できるのが大きな強みです。地域別のページもあるので、祖父母の出身地に近い地域を選んで聞いてみてください。
2. 文化庁の方言施策で「なぜ記録するのか」を知る
文化庁「消滅の危機にある言語・方言」のページでは、方言の記録作成や継承の取組が紹介されています。和歌山弁はユネスコの消滅危機言語には含まれていませんが、方言は記録しなければ話し手とともに消えるという考え方は、おばあちゃんの言葉を残したい人にとって同じです。方言研究の基礎資料を探すなら、国立国語研究所の公開資料も入口になります。
3. 家族で「聞き書き」してみる
最も価値があるのは、おばあちゃん本人に聞くことです。コツは3つあります。
- 「それどういう意味?」と素直に聞く。年配の方は方言を教えるのが好きな人が多く、会話が広がります。
- 出身地と育った年代をセットでメモする。同じ言葉でも紀北と紀南で意味や語感が違うことがあります。
- スマホで録音しておく。発音の癖(ザ行とダ行、母音の融合)は文字では残せません。
和歌山の観光情報とあわせて言葉の背景を知りたい方は、和歌山県観光連盟の公式サイトで祖父母の出身地域の文化や祭りを調べると、言葉が生まれた暮らしの姿が見えてきます。
和歌山弁の基本情報
| 名称 | 和歌山弁(紀州弁) |
|---|---|
| 話される地域 | 和歌山県全域(旧紀伊国として三重県南部にも近い方言が分布) |
| 方言学上の区分 | 紀北・紀中・紀南の3区分。各区分がさらに平地と奥地に分かれる |
| 主な特徴 | ザ行とダ行の混同、勧誘の「〜ら」、文末の「〜のし」、打ち消しの「〜ん」「〜やん」 |
| 公式の記録資料 | 和歌山県文化情報アーカイブ「和歌山の方言」(平成22年度 県文化情報アーカイブ事業方言調査) |
| 編集元 | 和歌山県企画部企画政策局文化学術課 |
| 公式URL | https://wave.pref.wakayama.lg.jp/bunka-archive/hougen/ |
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- 和歌山弁クイズ30問:この記事で覚えた昔の言葉を、おばあちゃんと一緒に解いてみてください。
- あがらの意味:現役で使われる一人称「あがら」の由来と「わがら」との違いです。
- 和歌山の珍しい地名:学文路・見老津など、読めない地名にも古い言葉が残っています。
よくある質問
和歌山弁の「クチナワ」とはどういう意味ですか?
蛇のことです。和歌山県文化情報アーカイブの50音順ページに「クチナワ・クチナー:蛇」として収録されています。腐った縄に見えることから「朽ち縄」と呼ばれたのが由来とされ、和歌山では年配の方を中心に今も使われます。
おばあちゃんが言う「キンノ」は何のことですか?
「昨日」の意味です。県公式アーカイブにも「キンノ・キンノー:昨日」として掲載されている代表的な昔の和歌山弁で、親世代までは今も自然に使う人が多い言葉です。
和歌山弁で「オトンボ」とは誰のことですか?
末っ子のことです。県公式アーカイブでは「オトンボ・オチンボ:末子」と記載されています。親戚の集まりで「あの子はオトンボやから」と言われたら、一番下の子という意味です。
和歌山弁の語尾「〜のし」は今も使われていますか?
年配の方を中心に使われていますが、若い世代ではほとんど聞かなくなりました。「そうやのし」は「そうですね」にあたる、相手に語りかける柔らかい語尾です。
和歌山弁の昔の言葉を音声で確認できる場所はありますか?
和歌山県文化情報アーカイブ「和歌山の方言」に、県内各地域の方言会話を共通語と対比した「方言会話文8選」が音声データ付きで収録されています。祖父母の出身地に近い地域の会話を選んで聞くのがおすすめです。
まとめ|和歌山弁の昔の言葉はおばあちゃんとの会話で残す
- 和歌山弁の昔の言葉は、県文化情報アーカイブ(平成22年度調査)に「クチナワ」「オイヤン」「キンノ」「オトンボ」などが公式に収録されています。
- おじいちゃんの語尾「〜のし」や二人称「おまん」は古い層、「〜ら」「〜やん」「あがら」は若い世代まで現役です。
- 聞き取れない原因の多くは発音の癖で、ザ行をダ行に、ダ行をラ行に置き換えて聞き直すと判読できます。
- 死語になりつつあるのは自然・道具・家族の呼び方に関する言葉で、生活の変化とともに使う場面が消えています。
- 確かめるときは県公式アーカイブの音声を聞き、祖父母の出身地と年代をメモしながら聞き書きするのが一番です。
次に読むなら和歌山弁クイズ30問で、今回覚えた言葉がどれだけ身についたか試してみてください。




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