「ぜんざい」を「でんだい」と言われて、一瞬止まった経験はありませんか。和歌山に住み始めた人や帰省した家族から、「今の言葉、方言なん?」と聞かれて答えに詰まる県民も少なくありません。和歌山の方言は紀州弁と呼ばれ、関西弁の一種でありながら、大阪の人にも通じない言葉がいくつも残っています。
意外に知られていないのが、和歌山県が旧50市町村すべてを回って方言を調べ、会話の音声まで公開している公式アーカイブがあることです。この記事では、その県の調査資料と地元の肌感覚を合わせて、和歌山の方言の特徴、語尾、単語一覧、紀北・紀中・紀南の地域差をまとめます。読み終えるころには、「あがら、つれもて行こら」が自然に聞き取れるはずです。
和歌山の方言(紀州弁)とは|話されている範囲と3つの区分
和歌山の方言は「紀州弁」とも呼ばれ、和歌山県全域と三重県南部(旧紀伊国)で話されています。和歌山県の公式資料では、県内の方言を紀北方言・紀中方言・紀南方言の3つに区別しています。
和歌山県文化情報アーカイブ「和歌山の方言」は、県の文化学術課が平成22年度に実地調査を行い、昭和59年度の県調査と合わせて公開しているものです。地域別のページでは、旧50市町村を紀北17・紀中16・紀南17に分けて、同じ言葉がどう変わるかを示しています。
おおまかな目安として、紀北は和歌山市・海南市・岩出市・紀の川市・橋本市など大阪寄りの地域、紀中は有田市・湯浅町・御坊市・みなべ町などの中央部、紀南は田辺市・白浜町・串本町・那智勝浦町・新宮市などの南部です。大阪に近い紀北ほど大阪弁に寄り、南へ行くほど独自色が強くなるのが基本の構図です。

和歌山の方言の最大の特徴|ザ行がダ行になる発音と敬語が少ない理由
和歌山の方言でまず話題になるのが、ザ行とダ行が入れ替わる発音です。「ぜんざい」が「でんだい」、「ぞうきん」が「どうきん」、「全然」が「でんでん」になります。逆にダ行がラ行に寄ることもあり、「からだ」を「かだら」と言う人もいます。
これは県民が発音できないのではなく、口の形が近い音が古くから混ざり合った結果です。同じ傾向は大阪南部の泉州や河内にもありますが、和歌山では特にはっきり残っています。県外で「座布団」を「だぶとん」と言って笑われた経験は、県民の鉄板ネタです。
敬語が少ないのは和歌山の方言の歴史と関係がある
もう一つの特徴が、敬語表現がきわめて少ないことです。和歌山県知事のメッセージ(令和6年6月3日)でも、作家の司馬遼太郎が「紀州方言に敬語がないのは、歴史的に上下関係が少なく、平等の思想が古くから根付いていたため」と述べたことが紹介されています。
そのため、初対面の人に「〜やしてよ」と言われても、なれなれしいわけではありません。地元ではこれが普通の丁寧さです。県のアーカイブでは、丁寧な表現として「ノシ」が挙げられており、今は主に高齢の女性が使うものの、かつては男性も使う上品な言い回しだったと解説されています。

和歌山の方言でよく聞く語尾と文法|「やしてよ」「のし」「ら」「ちゃーる」
単語よりも先に覚えたいのが語尾です。和歌山の方言は語尾を聞き取れるだけで、会話の意味がほぼ分かります。日常で頻度が高いものを表にまとめました。
| 語尾・文法 | 意味 | 使用例 |
|---|---|---|
| 〜やしてよ | 〜ですよ | ほうやしてよ(そうですよ) |
| 〜ら | 〜だろう・〜しよう | 行くら(行くだろう)、行こら(行こう) |
| 〜のし | 〜ですね(丁寧) | ええ天気でのし(いい天気ですね) |
| 〜よし | 〜しなさい・〜したら | 食べよし(食べなさい) |
| 〜やん | 〜ない(否定) | 行かやん(行かない) |
| 〜ちゃーる/〜たーる | 〜してある・〜している | 書いちゃーる(書いてある) |
| 〜やる/〜よる | 〜している(進行) | 雨降りやる(雨が降っている) |
| 〜んでよ | 〜なんですよ | ひやいんでよ(冷たいんですよ) |
否定は「〜ん」が基本で、「〜やん」「〜へん」も地域によって混ざります。「〜ら」は和歌山の方言の中でも特に使用頻度が高く、推量にも勧誘にも使います。「ほな行こら」は「じゃあ行こう」、「来るら」は「来るだろう」です。関西の他地域にはない語尾なので、これが聞こえたら和歌山の人と思ってほぼ間違いありません。
和歌山の方言の単語一覧|日常でよく使う30語と意味
ここでは、県の調査に載っている語と、地元で日常的に聞く語を分けて紹介します。「県調査」と記した語は、和歌山県文化情報アーカイブの50音順・解説ページに掲載されているものです。それ以外は地元で一般的に使われる言葉で、地域や世代で言い方が変わることがあります。
| 和歌山の方言 | 意味 | 備考 |
|---|---|---|
| あがら/わがら | 私たち | 紀州弁の代名詞的な一人称 |
| つれもて | 一緒に | 「つれもて行こら」で「一緒に行こう」 |
| おもしゃい | おもしろい | 「おもっしゃい」とも |
| ひやい | 冷たい | 「ひやいんでよ」 |
| いごく | 動く | 「いごかんといて」(動かないで) |
| みてる | 無くなる・尽きる | 「ガソリンみてた」 |
| てんご | いたずら | 「てんごせんといて」 |
| もじける | 壊れる | 「もじけた」(壊れた) |
| かだら | 体 | ダ行とラ行の入れ替わり |
| てき | あいつ | 悪意のない三人称 |
| よーけ | たくさん | 関西共通だが和歌山で頻出 |
| あでよ | あら、まあ | 驚きや相づち |
| せんど | たくさん・何度も | 「せんど言うた」 |
| おとろしい | 面倒だ・大変だ | 「恐ろしい」の意味ではない |
| イナビカリ | 稲妻 | 県調査 |
| イラチ | 性急な人・せっかち | 県調査 |
| オイヤン | おじさん(伯父・叔父) | 県調査 |
| オナゴ | 女性 | 県調査 |
| オヒサン | 太陽 | 県調査 |
| オトンボ/オチンボ | 末っ子 | 県調査 |
| ユーベ/ユンベ | 昨晩 | 県調査 |
| テッペン | 山頂 | 県調査 |
| クチナワ | 蛇 | 県調査(西日本に分布) |
| ナンバ | とうもろこし | 県調査(西日本に分布) |
| ソコマメ | 落花生 | 県調査(西日本に分布) |
| サイラ | さんま | 県調査(分布の少ない語) |
| ハビ | まむし | 県調査(分布の少ない語) |
| ツレ | 仲間・友達 | 県調査(分布の少ない語) |
| でんだい | ぜんざい | ザ行がダ行になる例 |
| どうきん | ぞうきん | ザ行がダ行になる例 |
県の解説ページでは、方言を「全国に分布する語」「西日本に分布する語」「分布の少ない語」に分けています。「サイラ(さんま)」「ハビ(まむし)」「ツレ(仲間)」は分布の少ない語とされ、和歌山らしさが強い言葉です。「ツレ」は今も若い世代が普通に使うので、方言と意識していない県民が多い言葉でもあります。

紀北・紀中・紀南で違う和歌山の方言|同じ言葉でも地域で変わる
和歌山の方言は一枚岩ではありません。知事のメッセージでも「紀北・紀中・紀南で地域ごとになまりが違う」と触れられているとおり、県民同士でも通じない言葉があります。
県アーカイブの地域別ページでは、「夕立雨」「炎天下」「油虫(ごきぶり)」「松笠(まつぼっくり)」「私」「貴方」「彼奴」「甘えん坊」「和尚さん」「旋毛(つむじ)」「ものもらい」「十時の軽食」「蒲鉾」「菓子」「柏餅」「薪」など27項目について、旧50市町村ごとの言い方を一覧にしています。暮らしに密着した言葉ほど地域差が大きいことが、この一覧から読み取れます。
地元で感じる紀北・紀中・紀南の方言の違い
- 紀北(和歌山市・橋本市など):大阪との往来が多く、語彙は大阪弁に近い一方で、ザ行とダ行の入れ替わりははっきり残っています。「〜ら」「やしてよ」はここでも健在です。
- 紀中(有田市・御坊市・みなべ町など):みかんや梅の農業地帯で、古い言い回しが残りやすい地域です。県の会話文資料でも御坊市の録音が多く採られています。
- 紀南(田辺市・新宮市・串本町など):敬語の少なさが最もはっきりしており、三重県南部と連続した言葉です。田辺市を舞台にした映画で主要キャストが田辺弁を話したことでも知られます。
旅行者の目線では、白浜や串本で地元の人と話すときに「〜ら」「〜よし」が飛び交うのが紀南らしさです。和歌山市では店員の言葉が大阪弁に聞こえることも多く、方言を強く感じたいなら南へ向かうのがおすすめです。

県の調査資料で聞ける本物の和歌山の方言|会話文8選の使い方
方言を文字で読むだけでは、イントネーションまでは分かりません。県のアーカイブには「方言会話文8選」があり、昭和59年度の県調査で録音された実際の会話を場面ごとに公開しています。
方言会話文8選の場面は、祝儀・物を借りる・道案内・おすそわけ・見送り・訪問・迎え・備長炭の話(自由会話)の8つで、和歌山市・那賀・御坊市・田辺・新宮市の話者が収録されています。
たとえば「おすそわけ」の会話は、次のように始まります。
イマ コドモノ トコカラ コレ モテ キテ クレタンヤケド ショーモナイ モンヤケド スコシバカリ オスソワケ シマス。アガッテ クレマスカ。
マー スミマセンヨー。セッカク モラワレタノニ。ワタシ コレ スキデノシ ドーモ アリガトー。
「モテ キテ」(持ってきて)、「スキデノシ」(好きですね)のように、文末の「ノシ」が丁寧さを担っている様子が、短い会話からでも分かります。転入してきた人や、祖父母の言葉を記録しておきたい県民にとって、無料で聞ける一次資料としてこれ以上のものはありません。
旅行者が和歌山の方言に触れられる場面|アニメ・クラフトビール・落語
方言は人と話さなくても出会えます。和歌山県公式観光サイトでは、和歌山弁が作品の魅力として扱われている例を複数紹介しています。
- アニメ「サマータイムレンダ」:和歌山市と友ヶ島をモデルにした作品で、登場人物が和歌山弁を話すことが印象的だと県公式観光サイトの特集で紹介されています。聖地巡礼で友ヶ島に渡る前に見ておくと、現地の会話が聞き取りやすくなります。
- クラフトビール「AGARA CRAFT」:和歌山弁の「あがら(私たち)」を名前にしたビールで、ラベルにも「よーけ(たくさん)」「あでよ」といった方言が入っていると県公式観光サイトのクラフトビール特集にあります。お土産として方言ごと持ち帰れる一本です。
- 和歌山弁の落語:和歌山出身の落語家が和歌山弁で演じる落語は、方言の間や抑揚を一度に体感できます。公演日程は各寄席や主催者の公式サイトで最新をご確認ください。

和歌山の方言を調べるときの基本情報
この記事の土台にした県の一次資料をまとめます。すべて無料で閲覧できます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 資料名 | 和歌山県文化情報アーカイブ「和歌山の方言」 |
| 運営 | 和歌山県 企画部企画政策局文化学術課 |
| 調査 | 平成22年度 文化情報アーカイブ事業方言調査、昭和59年度 県方言調査 |
| 収録内容 | 方言会話文8選、地域別(旧50市町村・27項目)、50音順、解説 |
| 地域区分 | 紀北17市町村・紀中16市町村・紀南17市町村 |
| 料金 | 無料(ウェブ公開) |
| 公式URL | wave.pref.wakayama.lg.jp/bunka-archive/hougen/ |
50音順ページは「あ」から「や」まで行ごとに分かれており、「ら」「わ」は掲載がありません。調べたい言葉が見つからないときは、地域別の27項目から探すか、会話文の中で前後の文脈ごと聞くのが近道です。
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よくある質問
和歌山の方言は大阪弁と何が違いますか?
和歌山の方言も大阪弁も関西弁の一種ですが、ザ行とダ行が入れ替わる発音、推量や勧誘の「〜ら」、丁寧表現の「〜のし」「〜やしてよ」は和歌山特有です。敬語が少ないことも大きな違いで、県知事のメッセージでも司馬遼太郎の指摘として紹介されています。
「あがら」と「わがら」はどちらが正しいですか?
どちらも「私たち」を指す和歌山の方言で、地域や話者によって使い分けられています。県のアーカイブでは「私」の言い方を旧50市町村ごとに一覧にしているので、自分の地元の形を確かめられます。
和歌山の方言は紀北と紀南でどれくらい違いますか?
県は紀北・紀中・紀南の3方言に区別しており、紀北は大阪弁に近く、紀南は敬語の少なさと独自の語彙が強いのが特徴です。「ごきぶり」「まつぼっくり」「十時の軽食」など生活語ほど地域差が大きく、県アーカイブの地域別ページで比較できます。
和歌山の方言の音声を聞ける場所はありますか?
和歌山県文化情報アーカイブの「方言会話文8選」で、昭和59年度調査の録音を場面ごとに無料で聞けます。和歌山市・御坊市・新宮市・田辺などの話者が収録されています。
旅行中に和歌山の方言を使っても失礼になりませんか?
和歌山の方言はもともと敬語が少ないため、「おおきに」「ほうやしてよ」程度なら歓迎されることがほとんどです。ただし「てき(あいつ)」など人を指す言葉は、親しい相手以外には使わない方が無難です。
まとめ|和歌山の方言は県の一次資料で確かめられる
- 和歌山の方言(紀州弁)は紀北・紀中・紀南の3つに分かれ、県が旧50市町村を調査した公式アーカイブがある
- 最大の特徴はザ行がダ行になる発音と、敬語がきわめて少ないこと
- 語尾は「〜ら」「〜やしてよ」「〜のし」「〜よし」「〜ちゃーる」を押さえれば会話の大半が分かる
- 「サイラ」「ハビ」「ツレ」など分布の少ない語が和歌山らしさの核
- アニメ・クラフトビール・落語でも方言に触れられる
次に読むなら、実際に声に出して試せる和歌山弁クイズと、一人称を深掘りしたあがらの意味がおすすめです。




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