和歌山で暮らしていると、「それ、標準語やと思てた」という言葉がいくつも出てきます。県外の友人に「つれもて行こ」と言って、きょとんとされた経験がある人は少なくないはずです。
和歌山弁はひとくくりに「関西弁」と思われがちですが、実際は大阪弁とも京都弁とも別の体系を持っています。和歌山県が平成22年度に行った方言調査では、語彙449項目・語法や表現53項目を、紀北・紀中・紀南の全域にわたって聞き取っています。それだけの項目数が立つほど、県内の言葉は層が厚いということです。
この記事では、和歌山弁でよく使う言葉を40語、意味と使う場面つきでまとめます。あわせて語尾の作り方、発音の癖、紀北・紀中・紀南の地域差、生活シーン別の会話例まで一気に押さえます。読み終えたときに「聞いて分かる」だけでなく「一言返せる」状態になるのが目標です。
和歌山弁でいちばん先に覚えてほしいのは「おおきに」です。「ありがとう」より軽くて、レジでも道でも使えます。逆に地元民が無意識に使って県外の人が固まるのは「ほかしといて(捨てといて)」。あれは本当に通じません。

和歌山弁でよく使う言葉40選|日常会話で出てくる定番語
まず、和歌山県内で日常的に耳にする言葉を40語に絞って一覧にします。表の「出典」欄が「県アーカイブ」のものは、和歌山県の文化情報アーカイブ「和歌山の方言」に見出し語として収録されている言葉です。それ以外は県内で広く使われている言い方で、語形や使う範囲には地域差があります。
| 和歌山弁 | 意味 | 使う場面・補足 | 出典 |
|---|---|---|---|
| つれもて | 一緒に | 「つれもて行こ」と誘うときの定番 | 県内で一般 |
| おおきに/おおきによ | ありがとう | 軽いお礼。語尾の「よ」で柔らかくなる | 県アーカイブ例文 |
| いぬ/いんでくる | 帰る/帰ります | 「そろそろいんでくる」で席を立つ合図 | 県アーカイブ例文 |
| ほいたら | そうしたら、じゃあ | 別れ際にも「ほいたらな」 | 県内で一般 |
| できやん | できない | 否定の「やん」。和歌山弁の中核 | 県内で一般 |
| ようさん/ようけ | たくさん | 「ようさんあら」「ようけないとる」 | 県アーカイブ例文 |
| ほかす/ほる | 捨てる | 県外で最も通じない語のひとつ | 県内で一般 |
| まくれる | 転ぶ、転がる | 「段差でまくれた」 | 県内で一般 |
| もじける | 壊れる | 物が破損したとき | 県内で一般 |
| かいだるい | 面倒だ、だるい | 疲れ・気乗りしないとき | 県内で一般 |
| いごく | 動く | 「ちょっといごいて」 | 県内で一般 |
| わやく/わやくちゃ | いたずら、めちゃくちゃ | 子どもを叱るときにも使う | 県内で一般 |
| ふうわりい | 恥ずかしい、きまりが悪い | 「ふうわりいことしたなぁ」 | 県内で一般 |
| べっこう | 余計なこと | 「べっこうなこと言わんでええ」 | 県内で一般 |
| めばちこ | ものもらい | 関西広域と共通 | 県内で一般 |
| かだら | からだ | 年配の方の会話に多い | 県内で一般 |
| じてこ | 自転車 | 和歌山らしい縮約形 | 県内で一般 |
| にんにこ | おにぎり | 家庭内や学校行事で | 県内で一般 |
| みーする | 魚の身をほぐす | 食卓で子どもに向けて | 県内で一般 |
| はずむ | ぜいたくをする | 「今日ははずもか」 | 県内で一般 |
| なっとか | どうにか | 「なっとかなるら」 | 県内で一般 |
| あかい | 明るい | 部屋や空の明るさに | 県内で一般 |
| ちこい/ちこかった | すごい/すごかった | 県アーカイブの例文に登場 | 県アーカイブ例文 |
| おっちかった | 怖かった | 同じく例文に登場 | 県アーカイブ例文 |
| ちさい | 小さい | 「ちさいころ」=子どものころ | 県アーカイブ例文 |
| わい | 私 | 一人称。年配男性に多い | 県アーカイブ例文 |
| イラチ | 性急な人、せっかち | 人の性格を表す | 県アーカイブ |
| オイヤン | おじさん(伯叔父) | 親族にも近所の人にも | 県アーカイブ |
| オトンボ/オチンボ | 末っ子 | 「○○さんとこのオチンボさん」 | 県アーカイブ |
| オナゴ | 女性 | やや古い言い方 | 県アーカイブ |
| オヒサン | 太陽 | 「最近オヒサン見てないな」 | 県アーカイブ |
| キンノ/キンノー | 昨日 | 「キンノーはおおきによ」 | 県アーカイブ |
| イナビカリ | 稲妻 | 天気の話題で | 県アーカイブ |
| クチナワ/クチナー | 蛇 | 山や田んぼの話で頻出 | 県アーカイブ |
| ハビ | 蝮(まむし) | 「ハビ出たっちゅう話やで」 | 県アーカイブ |
| デンデンムシ | カタツムリ | 畑仕事の会話に登場 | 県アーカイブ |
| タンボ | 水田 | 「タンボによう はまった」 | 県アーカイブ |
| テッペン | 山頂 | 「テッペンまでいこら」 | 県アーカイブ |
| サイラ/サエラ | さんま | 食卓・魚屋での呼び名 | 県アーカイブ |
| ソコマメ | 落花生 | 「ソコマメ食わんか?」 | 県アーカイブ |
一覧を眺めると、和歌山弁の語彙は自然・農作業・生き物・食べ物に関する言葉が極端に多いことに気づきます。クチナワ(蛇)、ハビ(蝮)、デンデンムシ、タンボ、サイラ、ソコマメ。これは和歌山が長く山と海と畑で成り立ってきた土地であることの反映で、言葉の一覧がそのまま生活史になっています。
和歌山弁の語尾の作り方|「〜やん」「〜け」「〜ら」を押さえる
単語を覚えるより効果が大きいのが語尾です。和歌山弁は語尾の変化で否定・疑問・意志をつくるため、ここを3つ押さえるだけで聞き取りの精度が一気に上がります。
否定の「〜やん」「〜やへん」
和歌山弁の否定は「〜やん」が基本です。「できない」は「できやん」、「行かない」は「行かやん」「行かへん」。大阪弁の「できへん」と並んで「やん」が強く出るのが和歌山の特徴で、県内では「こやん(来ない)」「しやへん(しない)」のような形も使われます。
注意したいのは、同じ「やん」でも関西全般で使う「〜やんか(〜じゃないか)」とは別物だという点です。和歌山で「行かやん」と言われたら否定、「行くやんか」と言われたら確認。文脈で切り分けます。
疑問の「〜け?」
和歌山弁の疑問文は語尾に「け」が付きます。「何してるの?」は「何しとんけ?」、「行くの?」は「行くんけ?」。音が強いため県外の人には詰問されたように聞こえることがありますが、和歌山ではごく普通のたずね方で、怒っているわけではありません。
意志・推量の「〜ら」
和歌山弁を他の関西弁から最も明確に分けるのが「ら」です。県公式アーカイブの例文にも、「いっそ テッペンまで いこら(いっそのこと山頂まで行こうよ)」「デンデンムシ ようさん あら(カタツムリがいっぱいいる)」「今晩 サイラの 塩焼き すら(今晩はさんまの塩焼きにする)」といった形が並びます。
整理すると、「いこら」=行こう(意志・勧誘)/「あら」=ある・いる/「すら」=する。「なっとかなるら(どうにかなるだろう)」のように推量にも伸びます。この「ら」が出てきたら、ほぼ和歌山だと判断してよい指標です。
確認・念押しの「〜でな」「〜やら」
文末の「でな」「やら」は、相手に軽く確認したり和らげたりする働きをします。「いちご畑にはデンデンムシわくでな」「わいなー、昔からソコマメ好きなんやら」のように、断定を一段ゆるめる役割です。和歌山弁がきつく聞こえにくいのは、この緩衝材があるからです。

和歌山弁の発音の癖|ザ行がダ行になる「ザダラ」現象
和歌山弁の話で必ず出てくるのが、ザ行がダ行寄りになるという発音の癖です。「ぜんぜん」が「でんでん」、「ざぶとん」が「だぶとん」、「全国」が「でんこく」に近く聞こえる、というものです。
これは俗説ではなく、国語学の研究対象として扱われてきました。国立国語研究所の日本語研究・日本語教育文献データベースには、1981年発表の「和歌山県方言におけるザ行・ダ行・ラ行間の混同と国語教育について」という論文が登録されています。ザ行・ダ行・ラ行のあいだで音が入れ替わる現象が、学校の国語教育の課題として40年以上前から論じられてきたということです。
ただし、ここは誤解されやすいところです。県民全員がいつでもザ行をダ行で発音するわけではありません。現れ方は世代と地域で差があり、若い世代では薄れているとされます。旅行者が「和歌山の人はザ行が言えない」と決めつけるのは、事実としても失礼としても外しています。
もうひとつ、文法面で知られているのが動詞の二段活用が残る地域があるという指摘です。日高郡を中心に御坊市・田辺市付近で報告されており、すべての動詞に一律で現れるわけではなく、語によっても地域によっても異同があるとされます。古い日本語の形が生活語として残っている例で、和歌山弁が単なる「関西弁の方言」ではないことを示す部分です。詳しい分布は県の調査資料や研究で確認するのが確実です。
和歌山県公式アーカイブで確かめる和歌山弁|449項目調査という土台
和歌山弁の情報はネット上に大量にありますが、出どころが明確なものは限られます。その点で押さえておきたいのが、和歌山県が公開している文化情報アーカイブ「和歌山の方言」です。
このアーカイブは4つの入口で構成されています。
| 方言会話文8選 | 昭和59年度の県方言調査報告書を音源に、8本の会話を共通語と対比。文字と音声の両方 |
|---|---|
| 地域別 | 県内の地域ごとの方言を共通語と対比して掲載 |
| 50音順 | 県内全域で使用頻度の高い方言を、意味と例文つきで掲載 |
| 解説 | 平成22年度の方言調査に関する解説資料 |
注目したいのは調査の規模です。解説によると、平成22年度の調査は語彙449項目・語法や表現53項目について、紀北17市町村・紀中16市町村・紀南17市町村のすべてを網羅して行われました。「ねんねこ」「十時の軽食」「蒲鉾」といった個別の語について、どの語形がどの地域で使われるかという分布まで扱われています。
そして方言会話文8選では、音声データが聞けます。収録は和歌山市の「祝儀」、御坊市の「物を借りる」「道案内」「おすそわけ」、新宮市の「見送り」「訪問」、那賀の「迎え」、田辺の「備長炭の話(自由会話)」の8本。文字で読むだけでは絶対に分からないイントネーションが、1984年当時の生の声で残っているのがこの資料の価値です。和歌山弁を本気で真似したい人は、単語帳より先にここを聞いたほうが早いです。
語彙を1語ずつ引きたいときは50音順のページから探せます。方言の記録や継承は国の国語施策としても扱われており、文化庁のサイトでは国語に関する施策の情報が公開されています。

紀北・紀中・紀南で違う和歌山弁|地域別のよく使う言葉
和歌山弁という呼び方は便利ですが、実際には県内で言葉がかなり変わります。県の調査でも紀北・紀中・紀南の3地域に分けて聞き取りが行われており、同じ県内でも「それ、こっちでは言わん」が普通に起きます。
紀北(和歌山市・岩出市・紀の川市・橋本市など)
大阪との往来が多いエリアで、和歌山弁の中では大阪弁に近く聞こえます。それでも「〜やん(否定)」「〜け(疑問)」はしっかり残り、「ほかす」「つれもて」も日常語です。県アーカイブの会話文では和歌山市の「祝儀」、那賀地域の「迎え」が収録されており、冠婚葬祭や近所づきあいの言い回しが聞けます。
紀中(海南市・有田市・御坊市・日高郡など)
和歌山弁らしさが最も濃く出るとされるエリアです。会話文8選のうち3本が御坊市から採られており、「御坊弁」として独立して語られることもあります。前述の二段活用が残る地域もここに含まれます。語尾の「ら」や「でな」が気持ちよく響くのが紀中です。
紀南(田辺市・白浜町・串本町・新宮市など)
和歌山県の南部は、三重県南部とあわせて「紀州弁」として扱われる言葉の広がりがあります。会話文では新宮市の「見送り」「訪問」、田辺の「備長炭の話」が収録されています。新宮や熊野エリアはアクセントの付き方が紀北とかなり違い、県内の人でも「南の言葉」と感じるほどです。

生活シーン別・和歌山弁の日常会話例
最後に、よく使う言葉を実際の場面に組み直してみます。ここで挙げる言い方は県公式アーカイブの例文と、県内で広く使われる語形を組み合わせたものです。
買い物・お店で
会計のあとの「おおきに」は、県内のどこでも通じる軽いお礼です。品物を勧められて断るときは「今日はええわ、おおきに」。量を聞かれたら「そんなようさんいらん」。和歌山の商店街や直売所では、この一言があるだけで一気に距離が縮まります。
道をたずねる・案内される
県アーカイブに御坊市の「道案内」が収録されているのは象徴的です。和歌山では道を聞くと、距離ではなく目印で返ってくることが多いです。「そこの角いって、テッペンのほう上がったらあら」。この「あら(ありますよ)」が和歌山らしい返しです。
食事・食卓で
食べ物の呼び名は和歌山弁の宝庫です。さんまは「サイラ」、落花生は「ソコマメ」。子どもに魚を出すときは「みーしたろか(身をほぐしてあげようか)」。ごちそうが並んだら「今日ははずんだなぁ(ぜいたくしたね)」。
片付け・頼みごと
家の中でいちばん出番が多いのは「ほかす」です。「それ、ほかしといて」は「それ、捨てておいて」。物が壊れたら「もじけた」、転んだら「まくれた」、動いてほしいときは「ちょっといごいて」。この4語が分かれば和歌山の家庭内会話はだいたい追えます。
別れ際
帰るときは「ほいたら、いんでくるわ」。送る側は「ほいたらな」。県アーカイブの例文「そろそろ夜も遅いんで、オイヤンは、いんでくる」は、そのまま使える和歌山弁のお手本です。

和歌山弁を使うときのコツと避けたいこと
旅行や移住で和歌山弁を使ってみたいとき、効果が高いのは語尾を無理に真似せず、単語だけ借りることです。「おおきに」「つれもて」「ほいたら」は単体で成立するので失敗しません。一方で「〜け?」「〜ら」はイントネーションが命なので、文字から入れると不自然になりがちです。
避けたいのは、和歌山弁をネタとして真似することです。「ザ行が言えない」「汚い方言」といった扱いは、県内の人がいちばん嫌う入り方です。県が449項目の調査をして音声まで残しているのは、方言が文化資料だからです。その前提で向き合うと、言葉はいくらでも教えてもらえます。
和歌山弁をもっと深く知りたい場合は、県の公式サイト和歌山県ホームページから文化情報アーカイブをたどるのが確実です。掲載内容は更新される可能性があるため、最新の情報は公式サイトでご確認ください。
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よくある質問
和歌山弁は大阪弁と何が違いますか?
いちばん分かりやすい違いは語尾です。否定の「〜やん(できやん)」、疑問の「〜け(しとんけ)」、意志・推量の「〜ら(いこら・あら・すら)」は和歌山に強く出ます。加えてザ行がダ行寄りになる発音の癖や、紀中に二段活用が残る地域があるなど、音と文法の両面で大阪弁とは別の体系を持っています。
和歌山弁でよく使う言葉を3つだけ覚えるなら何ですか?
「おおきに(ありがとう)」「つれもて(一緒に)」「ほいたら(そうしたら・じゃあ)」の3つをおすすめします。いずれも単体で成立し、相手が年上でも使いやすく、観光中でもそのまま出番があります。
和歌山弁の音声を聞ける公式の資料はありますか?
あります。和歌山県の文化情報アーカイブ「和歌山の方言」の「方言会話文8選」で、昭和59年度の県方言調査報告書を音源とした会話の音声が公開されています。和歌山市・御坊市・新宮市・那賀・田辺の8本で、共通語との対比つきです。
和歌山弁は県内どこでも同じですか?
同じではありません。県の調査も紀北・紀中・紀南に分けて行われており、語彙も語尾もアクセントも地域で変わります。紀北は大阪寄り、紀中は和歌山弁らしさが濃く、紀南は三重県南部とつながる紀州弁の広がりの中にあります。同じ県内でも通じない語は普通にあります。
「ほかす」はどういう意味ですか?
「捨てる」という意味です。「ほる」「ほっとく」も同系で、「それほかしといて」は「それ捨てておいて」。和歌山県民が標準語だと思って使い、県外でまったく通じない代表例のひとつです。
まとめ
- 和歌山弁でよく使う言葉は、自然・農作業・生き物・食べ物の語彙が中心。まずは「おおきに」「つれもて」「ほいたら」の3語から
- 語尾は否定「〜やん」・疑問「〜け」・意志と推量「〜ら」の3本柱。「ら」が出たらほぼ和歌山
- ザ行がダ行寄りになる現象は国立国語研究所の文献にも論文が残る研究対象。ただし世代・地域で差があり決めつけはNG
- 和歌山県の文化情報アーカイブ「和歌山の方言」は語彙449項目・語法53項目の調査が土台。音声付きの会話文8選が最良の教材
- 紀北・紀中・紀南で言葉は大きく変わる。調べるときは必ず「和歌山」を付けて検索する
次は和歌山弁クイズで理解度を試すか、和歌山あるあるで方言以外の地元ネタも覗いてみてください。地名の読み方に興味が出たら和歌山の珍しい地名もあわせてどうぞ。




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