和歌山で子ども時代を過ごした人なら、公園や校庭で「よして!」と声をかけて遊びの輪に入った記憶があるはずです。缶けりでもドッジボールでも、合言葉はいつもこの一言でした。
ところが大学や就職で県外に出ると、この言葉がまったく通じません。それどころか「やめて」の意味に受け取られて、気まずい空気になることさえあります。「よして」で検索する人の多くは、たいていこの気まずさを経験した直後です。
実はこのすれ違いは偶然ではありません。標準語の「よして」は「止して(=やめて)」ですが、和歌山弁の「よして」は「寄す(=近づける・仲間に入れる)」から来た、まったく別の言葉です。同じ音で、ほぼ正反対に聞こえてしまうわけです。
この記事では、「よして」の意味と語源、実際の会話での使い方、どこまでの地域で通じるのか、そして一緒に覚えておきたい和歌山弁までまとめます。読み終わったときには、県外の友人に一言で説明できる状態になっているはずです。
地元民のひとこと/「よして」は和歌山で“方言だと気づかれにくい方言”の代表格です。方言辞典の目立つところに載るような珍しい言葉ではなく、空気のように使ってきた言葉だからこそ、県外で通じないと知ったときのショックが大きいのだと思います。和歌山では今も、子どもの遊びの場で現役の言葉です。
「よして」は和歌山弁で「仲間に入れて」という意味
結論から言うと、和歌山弁の「よして」は「(遊びや集まりの)仲間に入れて」という意味です。すでに始まっている輪の中に、自分も加えてほしいとお願いするときの一言です。
和歌山だけでなく大阪・京都・兵庫・奈良といった近畿一帯で使われる言い方で、紀州弁(和歌山弁)に固有の語というより、近畿方言として共有されている言葉と考えたほうが実態に近いです。和歌山ではその中でも使用頻度が高く、子どもの遊びの定型句として定着しています。
実際の使い方は、おおむね次の3パターンに整理できます。
- 自分が入りたいとき:「おれもよして!」「よしてー!」
- 対象をはっきり言うとき:「ドッジボール、よしてや」「鬼ごっこ、わたしもよして」
- 他の子を入れてあげてと頼むとき:「あの子もよしてあげて」
つまり「よして」は、入れてもらう側だけでなく、入れてあげる側の動作にも使えるのがポイントです。「よしてあげる」「よしてもらう」と活用できるので、動詞としてきちんと機能しています。

「よして」の語源は「寄す」|標準語の「止して」との違い
和歌山弁の「よして」が「仲間に入れて」になる理由は、語源をたどると一気に腑に落ちます。もとになっているのは「寄す(よす)」=近づける・寄せ集めるという他動詞です。
「机を壁に寄せる」の「寄せる」と同じ発想で、人を輪の内側に寄せる=仲間に入れるという意味に広がりました。だから近畿では「よせて」という形も同じ意味で使われ、「よして」と「よせて」はほぼ交換可能です。
一方、標準語の「よして」は「止す(よす)」の連用形「止し」+「て」で、「やめて」という意味になります。「冗談はよして」「もうよしなさい」の「よして」です。
| 比較項目 | 和歌山弁・近畿方言の「よして」 | 標準語の「よして」 |
|---|---|---|
| もとの動詞 | 寄す(よす)=近づける | 止す(よす)=やめる |
| 意味 | 仲間に入れて | やめて・中止して |
| 言い換え | 入れて/混ぜて/よせて | やめて/止めて |
| 使う場面 | 遊び・集まりに加わるとき | 相手の行為を止めたいとき |
同じ「よす」という音の動詞が2つあり、たまたま活用形がぶつかっている――これが県外でのすれ違いの正体です。和歌山の人が善意で「よして!」と言っているのに、相手は「何かをやめろと言われた」と受け取るのですから、噛み合わないのも当然です。
「よして」の使い方|和歌山の会話例文で覚える
「よして」は子どもの遊びの場面が中心で、大人同士の会話で使う場面はぐっと減ります。ただし家庭内や地元の友人同士では、大人でもそのまま使います。語感をつかむために、よく聞く形を並べておきます。
- 「なあ、よしてー」…最も素朴な形。語尾を伸ばして甘える調子になります。
- 「おれもよしてや」…「や」が付くと和歌山らしさが強まります。
- 「よしてくれへん?」…少し改まった頼み方。
- 「よしてあげて」…第三者を入れてあげてほしいときの頼み方。
- 「あかん、いっぱいやから」…断るときは「よさへん」とは言わず、素直に「あかん」で返すことが多いです。
語尾の「〜や」「〜へん」「〜ちゃある」といった近畿方言の要素と組み合わさることで、「よして」は和歌山の会話の中に自然に溶け込みます。和歌山弁の語尾や全体像は和歌山弁一覧でまとめています。
なお大人の社交場面、たとえば飲み会やグループチャットに加わりたいときは、「混ぜて」「入れてください」に言い換えたほうが角が立ちません。「よして」は語感がどうしても子どもっぽく、かつ県外出身者には通じないためです。

「よして」はどこまで通じる?地域別の言い方の違い
「仲間に入れて」は、全国でもっとも言い方が分かれる表現のひとつです。和歌山の人が県外で驚くのは、「よして」が通じないどころか、地域ごとに全然違う言葉が使われているからです。
| 地域 | よく使われる言い方 | ひとこと |
|---|---|---|
| 和歌山・大阪・京都・兵庫・奈良 | よして/よせて/まぜて | 「よして」が通じる中心エリア |
| 中国地方(岡山など) | よして/よせて | 近畿と共通する言い方が見られます |
| 関東 | いれて/まぜて | 「よして」は「やめて」に聞こえがち |
| 九州(大分など) | かてて | 「かたる(加わる)」系の言い方 |
| 東北 | かてて/いれて | 九州と似た語形が使われる地域があります |
※言い方は同じ県内でも地域差・世代差が大きいため、上の表はあくまで目安です。全国的な分布を正確に調べたい場合は、国立国語研究所が公開している言語地図や全国方言分布調査の資料が出発点になります。日本語の方言そのものの保存・継承については文化庁の言語・方言に関する施策でも取り組みが紹介されています。
覚えておくと便利なのは、「まぜて」は比較的広く通じるという点です。和歌山の人が県外で困ったら、まず「まぜて」に切り替えると会話が止まりません。
なぜ和歌山に「よして」が残ったのか|紀州弁の特徴から考える
紀州弁(和歌山弁)は近畿方言のひとつですが、山がちで交通の便が良くなかった土地柄から、古い発音・語法・語彙が残りやすかったと説明されます。「よして」のような古い他動詞「寄す」由来の言い方が日常語として生き残っているのも、その流れの中にあります。
和歌山県内の方言は、大きく紀北(和歌山市・海南市周辺)・紀中(有田市・御坊市周辺)・紀南(田辺市・新宮市周辺)の3つに分けて語られます。音の面では、ザ行とダ行が混ざる現象(「全然」が「でんでん」に近くなるなど)が近畿の中でもとりわけ目立つのが特徴です。
和歌山県は、こうした県内の方言を記録する大規模な調査を行っています。和歌山県ふるさとアーカイブの方言調査の解説によれば、平成22年度の文化情報アーカイブ事業として、和歌山大学の柏原卓教授を中心に「語彙」449項目・「語法・表現」53項目を、県内の紀北17市町村・紀中16市町村・紀南17市町村すべてで調査したとされています。50市町村を網羅した調査は、同解説の中で「空前かつ有意義な大事業であった」と評価されています。
興味深いのは、この50音順の方言一覧(や行)に並んでいるのが「ユーベ・ユンベ(昨晩)」のような語で、「よして」が独立した見出し語として大きく扱われてはいないことです。これは「よして」が和歌山固有の珍しい語ではなく、近畿一帯で共有された“気づかれにくい方言”であることの裏返しだと考えられます。だからこそ、県外に出て初めて方言だと知る人が多いのです。

「よして」と一緒に覚えたい和歌山弁
「よして」が気になった人は、同じように標準語だと思い込みやすい和歌山弁をまとめて押さえておくと便利です。県外の人との会話で詰まる場面を先に潰せます。
| 和歌山弁 | 意味 | 使い方の例 |
|---|---|---|
| よして | 仲間に入れて | 「おれもよしてや」 |
| あがら | 私たち | 「あがらも行くで」 |
| おもしゃい | 面白い | 「それおもしゃいなあ」 |
| いこら | 行きましょう | 「はよいこら」 |
| かだら | 体 | 「かだら大事にしてよ」 |
| ユーベ・ユンベ | 昨晩 | 「ユンベは何しやったんな?」 |
| 〜ちゃある | 〜してある(状態) | 「もう書いてちゃあるで」 |
このうち「あがら」は和歌山らしさが特に強い一人称です。由来や「わがら」との違いはあがらの意味で詳しく解説しています。自分の理解度を試したいときは和歌山弁クイズも用意しました。
「よして」の基本情報
最後に、県外の人に説明するときそのまま使える形で情報を整理しておきます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 言葉 | よして(よせて) |
| 意味 | (遊びや集まりの)仲間に入れて |
| 語源 | 他動詞「寄す(よす)」=近づける・寄せ集める |
| 品詞・形 | 動詞の連用形+「て」。依頼の形で使う |
| 標準語訳 | 入れて/混ぜて/仲間に入れてください |
| 主に通じる地域 | 和歌山をはじめ近畿一帯、中国地方の一部(地域差・世代差あり) |
| 使う場面 | 子どもの遊びが中心。大人は家族・地元の友人同士 |
| 紛らわしい同形語 | 標準語「よして」=「止して」(やめて) |
| 参考資料 | 和歌山県ふるさとアーカイブ 方言/国立国語研究所 |

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方言と一緒に土地を歩きたくなったら、和歌山県公式観光サイトで最新のイベント情報を確認してから出かけるとスムーズです。

よくある質問
「よして」は和歌山弁だけの方言ですか?
いいえ。和歌山で頻繁に使われますが、大阪・京都・兵庫・奈良など近畿一帯や、中国地方の一部でも「仲間に入れて」の意味で使われます。和歌山固有の語ではなく、近畿方言として共有されている言葉と考えるのが正確です。
「よして」と「よせて」はどちらが正しいですか?
どちらも使われ、意味の違いはほとんどありません。もとになっている「寄す」「寄せる」の揺れがそのまま残った形です。地域や家庭、世代によって言い慣れた形が違うため、どちらかが誤りということはありません。
大人も「よして」を使いますか?
使う人はいますが、中心は子どもの遊びの場面です。大人同士が集まりに加わりたいときは「混ぜて」「入れてください」のほうが自然で、県外出身者にも通じます。ビジネスの場では避けたほうが無難です。
県外で「よして」と言ったら、なぜ「やめて」と誤解されるのですか?
標準語の「よして」は「止す(やめる)」の活用形で「やめて」という意味になるからです。和歌山弁の「よして」は「寄す(近づける)」由来の別語で、音が同じで意味がほぼ正反対のため、聞き手は標準語の解釈をしてしまいます。
和歌山弁をまとめて調べたいときは何を見ればよいですか?
和歌山県が公開している「和歌山県ふるさとアーカイブ」の方言ページでは、平成22年度の県内全市町村調査にもとづく方言が50音順で確認できます。全国的な分布を調べたい場合は国立国語研究所の言語地図関連資料が参考になります。
- 和歌山弁の「よして」は「仲間に入れて」という意味。語源は「寄す(近づける)」です。
- 標準語の「よして」は「止して(やめて)」。同じ音でほぼ正反対に聞こえるため、県外で誤解されます。
- 通じるのは主に近畿一帯と中国地方の一部。県外では「まぜて」「入れて」に言い換えると安全です。
- 「よしてあげる」「よしてもらう」と活用でき、入れる側・入れてもらう側の両方で使えます。
- 和歌山県は平成22年度に県内50市町村を網羅した方言調査を行っており、公式アーカイブで方言を確認できます。




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