和歌山の人と話していて、「そら、おとろしいなあ」と言われて一瞬固まった経験はないでしょうか。響きだけなら「おそろしい」に近いのに、どこか軽い調子で使われるので、怖い話なのか面倒な話なのか判断がつきません。
やっかいなのは、奈良出身の人は同じ「おとろしい」を「面倒くさい」の意味で使うという点です。どちらかが間違っているように思えますが、じつはどちらも方言としては正しく、意味が地域で分かれているだけです。
さらに意外なのは、この言葉が和歌山だけのものではないこと。辞書には和泉・南近畿・淡路・四国・北陸にまで分布が記録されていると書かれています。
この記事では、和歌山弁としての「おとろしい」の意味、語源と分布、奈良との違い、実際の使い方と例文、紀北・紀中・紀南の地域差、そして一緒に覚えたい和歌山弁までをまとめます。読み終えたら、和歌山弁クイズで腕試しもできます。

おとろしいの意味は、和歌山弁で「恐ろしい・怖い」
結論から書きます。和歌山弁の「おとろしい」は、標準語の「恐ろしい」「怖い」とほぼ同じ意味です。辞書でも「おそろしい」の転で恐怖感を表す語として説明されており、和泉や南近畿(和歌山県域を含む地域)、淡路、四国、北陸などで使われると記録されています。
つまり和歌山で「おとろしい」と聞いたら、まず「怖い」と置き換えて読めば意味は通ります。「おとろしい話」は怖い話、「おとろしかった」は怖かった、という具合です。
ただし体感としては、標準語の「恐ろしい」よりも当たりがやわらかく、日常会話で気軽に使われます。幽霊や犯罪のような重い恐怖だけでなく、急ブレーキ、荒れた海、強い雷、ヒヤッとした出来事にも使われるのが特徴です。標準語で「恐ろしい」を連発すると大げさに聞こえますが、和歌山弁の「おとろしい」はその重さを持たずに使えます。
| 見出し語 | おとろしい(おとろし) |
|---|---|
| 品詞 | 形容詞 |
| 和歌山での意味 | 恐ろしい/怖い |
| 語源 | 「おそろしい」の転(音の変化) |
| 主な分布 | 和泉・南近畿・淡路・四国・北陸など |
| 奈良での意味 | 面倒くさい/煩わしい(恐怖の意味で使う地域もある) |
| 県内の使用地域差 | 要確認(紀北・紀中・紀南で語彙差があることは県の方言調査で確認) |
| 参考資料 | 和歌山県「和歌山の方言」アーカイブ/国立国語研究所『日本言語地図』 |
おとろしいの語源は「おそろしい」の音変化|和歌山だけの方言ではない
「おとろしい」は、標準語「おそろしい」の音が変化した形と説明されています。「そ」が「と」に入れ替わっただけなので、意味が「恐ろしい」のままであるのは自然な流れです。
注目したいのは分布の広さです。前述のとおり、辞書には和泉・南近畿・淡路・四国・北陸という記載があり、紀伊半島から瀬戸内、さらに日本海側まで点々と使われてきたことが分かります。和歌山固有の言葉ではなく、西日本に広く残る古い言い方のひとつと考えると位置づけがつかみやすくなります。
「恐ろしい」という語そのものの方言分布は、国立国語研究所『日本言語地図』の第42図「おそろしい(恐ろしい)」で全国地図として確認できます。この地図集は1966年から1974年にかけて刊行され、全国約600地点の調査にもとづいて語形の分布を示したもので、第1集はパブリック・ドメイン・マークで公開されています。「自分の祖父母の言い方がどのエリアの形なのか」を確かめたい方は、一次資料として眺めてみる価値があります。

奈良の「おとろしい=面倒くさい」との違い|同じ言葉で意味が変わる
「おとろしい」で検索する人がいちばん引っかかるのが、この意味のズレです。奈良県では「おとろしい」が「面倒くさい」「煩わしい」の意味で使われると広く記録されています。「宿題せんならんの、おとろしい」といえば、怖いのではなく「気が重い・やりたくない」という意味になります。
一方で和歌山や大阪では、同じ語が「恐ろしい」のまま使われます。つまり県境をまたぐと、同じ音で、恐怖と億劫という別の感情を表すことになります。
興味深いのは、その中間に両方の意味を持つ地域があることです。辞書では大和(奈良県)の奥吉野について、恐怖のほかに「面倒くさい、疲れた、うるさい」の意味でも用いられると説明されています。奥吉野は和歌山県の北東部と山でつながるエリアで、ことばの意味が入り交じる境目になっていると読み取れます。
意味の違いをまとめた比較表
| 地域 | おとろしいの意味 | 言い換えると |
|---|---|---|
| 和歌山(紀州) | 恐ろしい・怖い | こわい、ヒヤッとする |
| 大阪・和泉 | 恐ろしい・怖い | こわい |
| 奈良(県北部など) | 面倒くさい・煩わしい | 気が重い、やりたくない |
| 奈良・奥吉野 | 恐ろしい+面倒くさい・疲れた・うるさい | 文脈で判断が必要 |
| 淡路・四国・北陸 | 恐ろしい・怖い | こわい |
おとろしいの使い方と例文|活用と言い回しを押さえる
意味が分かっても、聞き取れなければ会話では使えません。和歌山弁は語尾が独特なので、「おとろし」+語尾の形でまとめて覚えるのが近道です。標準語に置き換えた例を並べます。
| 和歌山弁 | 意味 | 使う場面 |
|---|---|---|
| おとろしいなあ | 怖いなあ | 怖い話や危ない話を聞いたとき |
| おとろしよ | 怖いよ | 相手に注意をうながすとき |
| おとろしかった | 怖かった | 出来事を振り返るとき |
| おとろしいこと言わんで | 怖いことを言わないで | 不安をあおられたとき |
| おとろしゅうて | 怖くて | 理由を説明するとき |
会話の形にすると、たとえばこうなります。「昨日の雨、ようけ降ったなあ」「川、見にいったら水がすごかったで。あれはおとろしかったわ」。危ないものを見たあとの感想として、ごく普通に出てくる言葉です。
なお、「おとろしいに人がおる(ものすごく人がいる)」のように、程度の強調として使う話し手もいると言われます。ただしこれは地域差・世代差が大きい用法で、県内全域で共通とは言えません。基本は「怖い」の意味で覚え、強調の用法は聞いたときに理解できれば十分です。
和歌山弁の語尾や言い回しをまとめて確認したい場合は、和歌山弁一覧も合わせてご覧ください。

和歌山弁の地域差|紀北・紀中・紀南でことばは変わる
和歌山県の方言は近畿方言に属し、県では紀北方言・紀中方言・紀南方言の3つに区分して整理されています。つまり「和歌山弁」とひとくくりにしても、和歌山市と新宮市では語彙も響きも違います。
和歌山県の文化情報アーカイブに公開されている方言調査は、和歌山大学教授の柏原卓氏が2010年度(平成22年度)に実施したもので、語彙449項目・語法や表現53項目を対象に、紀北17市町村・紀中16市町村・紀南17市町村、合わせて旧50市町村を網羅しています。サイトには昭和59年度の県の調査結果も収録されており、県全体の言葉を比べられる貴重な資料です。
調査では、県内に広く分布する語と、地域で分かれる語の両方が記録されています。たとえば稲妻を指す「イナビカリ」、昨晩を指す「ユーベ」、山頂を指す「テッペン」は県内に広く見られる語として挙げられています。
一方で、蒲鉾の呼び方は紀北で「イタヤキ」、紀中で「ナンバヤキ」と分かれ、十時の軽食は「ヨツジャ」「ケンズイ」など複数の呼び方が記録されています。同じ県内でも、食べ物の名前からして違うのです。「おとろしい」の使われ方に土地ごとの濃淡があるのも、この地域差の延長線上にあります。
地域ごとの語彙は和歌山県の方言(地域別)で項目別に確認できます。
おとろしいと一緒に覚えたい和歌山弁
「おとろしい」が聞き取れるようになったら、同じ会話に出てきやすい語もまとめて覚えると会話が一気に楽になります。ここでは和歌山県の方言アーカイブで記録が確認できる語を中心に紹介します。
| 和歌山弁 | 意味 | 補足 |
|---|---|---|
| おとろしい | 恐ろしい・怖い | この記事の主役。「おそろしい」の転 |
| イナビカリ | 稲妻 | 県内に広く分布する語 |
| ユーベ | 昨晩 | 「ゆうべ来たで」の形で使う |
| テッペン | 山頂 | 山の話題で頻出 |
| オナゴ | 女 | 古い言い方として記録 |
| オヒサン | 太陽 | 天地の語彙として収録 |
| オイヤン | 伯叔父(おじ) | 親族を指す語 |
| オトンボ | 末子 | 「オチンボ」とも記録 |
| イラチ | 性急な人 | 関西一帯で通じる |
| イタヤキ/ナンバヤキ | 蒲鉾 | 紀北/紀中で呼び方が分かれる |
一人称の「あがら(私たち)」も和歌山弁らしい言葉です。由来や「わがら」との違いはあがらの意味で詳しく解説しています。覚えた言葉を試したい方は和歌山弁クイズへ進んでみてください。

生の和歌山弁に出会える場所|旅行者が耳にする機会
方言は、文字で読むより耳で聞いたほうが早く身につきます。和歌山を訪れるなら、地元の人同士が話している場所に立ち寄るのがおすすめです。観光施設のスタッフは標準語で接客することが多いため、市場や朝市、商店街、路線バスの車内のほうが自然な会話を聞けます。
紀北なら和歌山市の中心商店街や漁港の直売、紀中なら有田や御坊の農産物直売所、紀南なら田辺・白浜・新宮の商店や港周辺が候補です。天候や海の話題になると「おとろしい」が出てきやすいので、台風のあとや風の強い日はねらい目といえます。
地域ごとのイベントや直売所の開催日は変わるため、お出かけ前に和歌山県公式観光サイトや和歌山市観光協会で最新情報をご確認ください。営業時間や開催日は変更される場合があります。
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よくある質問
おとろしいは和歌山県のどのあたりで使われますか
辞書では和泉や南近畿、淡路、四国、北陸などで使われると記録されており、和歌山県域は南近畿に含まれます。県内の細かい使用範囲については公的な調査結果で項目別に確認が必要なため、ここでは断定しません。和歌山県の方言アーカイブでは、紀北・紀中・紀南で語彙が分かれる例が多数記録されています。
おとろしいを「面倒くさい」の意味で使っても通じますか
和歌山では「恐ろしい・怖い」として受け取られるため、面倒くさいの意味では通じにくいと考えてください。「面倒くさい」の意味で使われるのは主に奈良県側です。奈良の奥吉野のように、恐怖と面倒の両方の意味を持つ地域もあります。
おとろしいと「おそろしい」は同じ意味ですか
意味はほぼ同じです。「おとろしい」は「おそろしい」の音が変化した形と説明されています。ただし和歌山弁の「おとろしい」は標準語の「恐ろしい」より日常的で、ヒヤッとした程度の出来事にも気軽に使われます。
若い世代も「おとろしい」を使いますか
世代別の使用率を示す公的なデータは確認できなかったため、断定は避けます。一般に方言語彙は世代が下がるほど標準語に置き換わる傾向があるとされ、和歌山県の方言調査も言葉の変化を記録する目的を含んでいます。家族や年配の方との会話では、今も耳にする機会があります。
和歌山弁を学ぶのに役立つ公的な資料はありますか
和歌山県の文化情報アーカイブ「和歌山の方言」には、昭和59年度の県の調査結果と2010年度の方言調査、方言会話文、50音順の語彙一覧が公開されています。全国的な分布を見るなら、国立国語研究所『日本言語地図』が参考になります。
- 和歌山弁の「おとろしい」は「恐ろしい・怖い」。標準語より日常的で軽く使える
- 語源は「おそろしい」の音変化。和泉・南近畿・淡路・四国・北陸にも分布する
- 奈良では「面倒くさい・煩わしい」の意味。奥吉野では両方の意味を持つ
- 「おとろしよ」「おとろしかった」「おとろしゅうて」の形で覚えると聞き取りやすい
- 和歌山弁は紀北・紀中・紀南で語彙が分かれる。県の方言調査は全50市町村を網羅している
次に読むなら、語尾からまとめて学べる和歌山弁一覧、腕試しができる和歌山弁クイズがおすすめです。




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